観光庁は、観光地域づくり法人(DMO)を、地域の「稼ぐ力」を引き出し、地域への誇りと愛着を育てる観光地経営の司令塔として位置づけています。
はじめに:今回の改正は「DMOを地域の司令塔として強くする」ためのもの
観光庁は2025年3月、「観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン」を改正しました1。
今回のガイドライン改正は、「DMOが本来担うべき役割を、より具体的に・実務レベルで示したもの」と読み取ることができます。
インバウンド拡大を進める一方で、オーバーツーリズムの未然防止・抑制にも取り組みながら、持続可能な形で観光立国の目標を達成する必要がある、という問題意識が背景にあります。
1. これからのDMOは「発信」ではなく「地域を運営する」組織へ
ガイドラインでは、DMOが必ず担う基礎的な役割が5つに整理されています。最初に挙げられているのが、データを活用した戦略策定とPDCAである点が重要です。
また観光庁は、受入環境整備(着地整備)が十分でないまま、情報発信やプロモーションに偏る取組は望ましくないとはっきり言及しています。
これは、「PRをやめろ」という意味ではなく、地域として受け止める準備ができているかを先に整えるべきというメッセージだと読み取れます。

2. 「持続可能な観光」とは、環境だけでなく”地域の暮らし”を含む概念
ガイドラインが示す「持続可能な観光」は、環境面だけでなく、経済的・社会的な持続可能性を含むと明記されています。
さらに、住民の生活の質の向上も含めて、「観光地としてありたい姿」を地域自身が描く必要があるとされています。
これは、「来訪者が増えればよい」という単純な考え方から、地域全体にとって望ましい観光のあり方を設計する段階に入ったことを示していると考えられます。

3. 登録要件で求められるのは「4〜5年の戦略」と「数値での検証」
登録DMOには、中長期(4〜5年)を対象とした観光地経営戦略の策定が求められています。戦略には、以下のような要素が体系的に含まれることが要件として整理されています。
- ビジョン・KGI
- データ活用方針
- 環境分析
- STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)
- 4P(商品・価格・販路・プロモーション)
- 受入環境整備の方針
- CRMの方針
- 観光による受益を地域に広げる方針
- KPI、実行計画、効果検証方法
重要なのは、これらを”立派な資料”として作ることではなく、実際の判断や改善に使うことが前提になっている点です。
4. ガイドラインが示す「最低限見るべきデータ」
ガイドラインでは、DMOが必ず扱うべき指標として、KGI(ゴール)とKPI(途中経過)が明確に示されています。
4-1. KGI:旅行消費額
KGI(重要目標達成指標)として設定されているのは、旅行消費額です。これは「どれだけ人が来たか」ではなく、地域としてどれだけ価値を生み、消費につなげられたかを見る指標です。
旅行消費額は、国の統計を活用することで把握が可能です2。
4-2. KPI:量・質・地域の納得・産業の健全性・平準化
ガイドラインが例示するKPIは、以下の6つです。
- 1人当たり旅行消費額
- 延べ宿泊者数
- 来訪者満足度
- 持続可能な観光に対する住民満足度
- 観光事業者の平均給与額
- 月別来訪者数の平準化率
これらは、来訪者・住民・事業者のバランスを同時に見るための指標だと整理できます。

5. データは「高度に分析」するより「判断に使える形」にする
ガイドラインが求めているのは、専門的な統計分析ではなく、意思決定に使える形でデータを整理し、共有することです。
5-1. 頻度ごとにデータを分ける
- 月次: 延べ宿泊者数、来訪者数
- 四半期: 旅行消費の動向
- 年次: 住民満足度、給与水準、職員満足度
延べ宿泊者数などは、月次統計がすでに整備されています3。
5-2. まずは「3つのグラフ」で十分
多くのDMOでは、次の3点を可視化するだけでも、会議での議論の質が大きく変わります。
- 旅行消費額(KGI)の推移
- 延べ宿泊者数の月次推移
- 来訪者満足度の推移
来訪者満足度については、5段階評価で「満足・やや満足」の割合を見るという考え方が、観光庁の手引書でも示されています4。

6. 更新登録でさらに重視されるポイント
更新登録では、KGIに経済波及効果が追加されます。また、KPIについても、DMOが自ら設定する指標が追加され、戦略と実行の整合性がより重視されます。
さらに、
- 意思決定機関での議事内容の公表
- 職員満足度の評価と見直し
- 継続的な研修受講
など、透明性と組織の健全性も更新要件として明確にされています。
明日からできる最初の一歩
まずは、以下の3つを整理してみませんか?
1. 既存の調査を洗い出す
- 来訪者アンケート、住民アンケート、事業者ヒアリング
- 国の統計(宿泊旅行統計、旅行消費動向調査)
- 自治体が持っているデータ
2. 月次で見られるデータを特定する
- 延べ宿泊者数(宿泊旅行統計調査から取得可能)
- 来訪者数(既存のカウントデータ)
3. 会議で共有する形を決める
- A4用紙1枚にまとめる
- 3つのグラフだけでもOK
「完璧に分析」するより、「判断に使える形」にすることが大切です。
おわりに:DMOは「データで対話する組織」へ
今回のガイドライン改正は、DMOに対して「完璧な分析」や「高度なIT化」を求めているわけではありません。
むしろ、
- 地域の現状を数字で共有し
- 関係者と同じ前提で話し合い
- 施策を試し、振り返り、修正する
という、観光地経営として当たり前のサイクルを回すことが求められています。
DMOはこれから、「観光の発信主体」から**地域の未来を設計し、運営するための”調整役・判断役”**へ役割を深めていくことになるでしょう。
Footnotes
-
e-Stat「旅行・観光消費動向調査」 ↩